2014年7月2日水曜日

第5次産業ビジネスモデル

横浜商工会議所金沢支部が開いた岩田 松雄氏による講演に参加する機会があった。

経営の世界では、ディズニー、リッツカールトン、スターバックスのような感動経験を与える業態を第5次産業と呼ぶことがそうだ。ご存じの通り 1次産業、2次産業(製造)、3次産業(サービス)で、ITが4次産業(IT)に位置づけられている。そして5次産業としてディズニー、リッツカールトン、スターバックスといった”感動体験”企業がくる。スライドにはこれらの企業と並んで、バグジーという名前があった。先日、大塚商会のフェアーでバグジー代表の講演を聞いたことがある。その福岡の美容院のバグジーのことなんだろう。

例に上がっていた5次産業企業は、いずれも一般消費者と直接接して、”おもてなし”するビジネスを展開している。同じ業態のビジネスをやっているのであれば、すぐにでも参考になる話ではあるが、取引先が法人で ”おもてなし”ビジネスではない IT 業でも5次産業的なビジネスを展開する可能性はできないものだろうかと考えるきっかけとなった。

また、ディズニー、スターバックスのように少数の社員と多数のアルバイトで成り立っているビジネスに対する違和感を覚えた。


1.少数の社員と多数のアルバイト
4次産業や5次産業と呼ぶといかにもカッコいいかもしれないが、ビジネスを分類する切り口はいろいろある。その1つに、労働集約的、設備集約的、知識集約的という基準があると思う。これはビジネスの業態を見る基準ではなく、業態に関係なく、1次でも2次でも3次産業にも労働集約的、設備集約的、知識集約的な業務は存在するのであって、業態を横断的に分類する基準だ。

5次産業といっても、労働集約的な仕事であれば、1次産業の労働集約的な仕事となんら変わりはないだろう。多数のアルバイトが必要だということは、5次産業の仕事が本来、労働集約的なものだからではないか。クルーとか、なんとかというカッコいいタイトルをつかっているが、どんな名前をつけたとしても実質的な仕事の内容は労働集約的なものだ。以前よく言われた 3K の仕事と異なる点は、仕事をする場所はきれいで、”おもてなし”する客は高い金をはらっているというセッティングだ。しかし、田舎のレストランとウエイトレスの仕事と、”キャビンアテンダント”の仕事内容に実質的な違いはあるだろうか。仕事の場所と客は大きく違うが、食事をサーブする、席へ案内するなど職種の目的は同じではないか。客の人数が多い分、さらに労働集約的な仕事といえるかもしれない。

典型的な労働集約的な仕事と思われている日本の1次産業は、かなり前から労働集約的な仕事から設備集約的な仕事になっている。漁業、農業は少人数でも計器、器具を有効に用いることでレバレージが利かせているため、時間当りの収入は5次産業のアルバイトとは比較にならないほど高いはずだ。

一方、5次産業の直接接客は、設備などでレバレージを利かせることはできない。時間をかけて1人1人にサービスを提供する必要がある。効率を追求したらサービスの質が低下する可能性がある。客1人当たり単価が低い場合、5次産業のサービスは多数のアルバイトでこなす必要があるのだろう。

個人の株トレーダの中には数億、数百億という財産を1人で築き上げた者がいるという。年収何十億というファンドマネージャもいるようだ。数秒で何億という利益を得るいう。知識集約的な仕事で収入が多い。一方、何倍もの時間を費やしても、労働集約的な仕事ではとてもそのような利益を手にすることはできない。

手にする利益ではなく、どちらの方が人のためになっているのか、人に役に立つことができるだろうかという視点で考えると、別の視界が開ける。

知識というテコをつかって、とんでもないレバレージを利かせて個人的に利益を得たとしても、それはビジネスではない。


2.ミッション
岩田氏は、ビジネス的には数億、数百億という利益を得るのが成功と見なされているが、これが誰かのためになるのか、と問いかけていた。ビジネススクールではすべてを数値化する。結果も利益という数値で測られる。ヒルズ族の多くは、金銭的には成功をおさめてはいるが、一時的な成功をおさめただけであって、オンゴーイングコンサーンとしてのビジネスはしてこなかったと考えている。

知識集約的な仕事で利益を上げることはビジネス的には成功と思われることもあるかもしれないが、ビジネスの存在意義は社会のために何ができるかである。ドラッカーは the purpose of a business is to create a customer ( 客をつくるとは、その客のために何か役に立つことをした結果だろう ) と表現している。 役に立った対価として受け取り、その利益でビジネスを継続させることができる。

そうであれば、ビジネスをするには、どんな役に立ち方をするのかを前もって考えておかなければならない。それがミッションだ。どんな役に立ち(ミッション)、そして、その先に何があるかというビジョンを描きながら動く。役にたったら対価を受け取れる( create a customer )

岩田氏はソフトバンクの孫氏を例に、ソフトバンクは500年後、1000年後のことを考えてキャリヤーとなっり、自身の描くビジョンを展開しており、このミッション遂行の結果として利益がついてきており、ヒルズ族の手にして利益とは異なる、と考えているそうだ。

ミッションを抱いて、それを核にビジネスをするのは難しい。自分自身の存在理由まで考えなければならない。日本の教育は、このような思考を育成するようなものではない。また、日本の資格制度によって、ミッションからすべてがパッケージされた既成品が用意されている。その既製品を購入すれば( 資格を得るために勉強して、資格が必要な仕事につく )、何も考えずにビジネスをすることも可能になっている


3.ITビジネスで社会の役に立つ5次産業的なビジネスは可能か?
IT業でもユーザに対して徹底的にサポートする、希望することを叶える、といったJust Say Yes を実践できるのだが、接客業のように不特定多数との浅い、時間的に短い関係とは異なり、特定少数との、より深く、時間的に長い時間の接触という面で、感動経験を与えつづけるというのはなかなか難しい。深く、時間的に長い時間接触するサービス業という形態のままでは5次産業にはならないはずだ。

ユーザとの力関係、価値観の違いなどから、企業間、特定少数との取引では、相手に Just Say Yes と接すればするほど、悪い言い方になるが「徹底的に食い者にされる」のがオチ、となる方が多いのが現実かもしれない。10数年関係があった取引先があったが、その期間、その会社の売上は100倍近く伸びたようだだが、最後まで「迷惑をかけられた」と言い続けられた。 取引がななった後は、「途中で投げ出しだ」と言われた

取引終了の契約書を偽文書としたり - 録音を残すことで対抗したが - するなど、実際のITの仕事にかけた時間と同じぐらい関連する実務が必要になると、取引コストはかさむ。既成パッケージの売買だけの取引にした方が、お互いの利益になるだろう。資源に乏しい零細企業が法的に対処するのは、ほとんど不可能で、相手はそれを前提にやる場合が多い。深く、時間的に長い時間サービスするビジネスは零細企業にとっては成り立たないのかもしれない。

4次産業までは、「おまえの損は俺の得」、ゼロサムゲーム的な要素があちこちにあった。取引に特定少数という要素があると、取引間の力関係でゼロサムゲームが展開されることになる可能性がある。上の例は典型的なものだろう。

ゼロサムゲームに巻き込まれずに、WIN-WINの関係でビジネスを展開するモデルは1,2,3,4次産業にはないだろう。よくよく考えると、ここ最近の伸びている新興ビジネスの多くは不特定多数との浅い関係を基本とした5次産業モデルではなかろうかと思うようになった。

アップルの AppStoreや グーグルの GooglePlay で、感動体験を与える App を不特定多数にオンライン販売することは、まさに5次産業の不特定多数との浅い短い関係で行うビジネスである。そのよに考えると、AppStore / GooglePlay は5次産業ビジネスのためのプラットフォームだ。App開発者はそのプラットフォームを利用して WIN-WIN のビジネスが可能になった。また、 アップルは製品を直接ユーザにもオンライン販売をして成功している。 アップルは5次産業企業だったのだ。

5次産業前はウィンテルのビジネスがIT業を支配した。パートナーとの水平協業で産業の裾を広げ、そのエコシステムに IT 業者が参加した。インテルが製造した心臓部CPU、日本企業が提供する各種部品、台湾でアセンブルするマザーボード、中国で作ったケースにマザーボードを入れてOEMでPCをアセンブルする。マクロソフトOSをプレインストールした OEM PCをPCメーカのブランドを付けて販売する、OSのバージョンが更新される度に業界全体で大々的に宣伝をかける、というのがビジネスだった。

ここにアップル、グーグル、Amazon の5次産業ビジネスモデルが登場して、IT業界のルールが大きく変わり始めたのかもしれない。マイクロソフトがタブレットを販売したり、Store で App開発者が直販するというビジネスを始めている。日本に目を向ければ、Lineを代表に、新興ビジネスは5次産業のビジネスモデルで動いている。不特定多数の消費者に安価に直接販売するのが特徴だ。

今では、その気になれば、誰でも5次産業ビジネスに参加できる環境がととのっている。5次産業プラットフォームを使えば、不特定多数の個人がエンパワメントされ、不特定多数に対してそれまで資金力、組織力なければ不可能だったビジネスを展開することが可能だ。Google, Amazon, マイクロソフトのクラウドサービスを使えば、いままで大企業しか提供できなかったようなサーバをつかったサービスを構築できる環境がそろっている。

では、簡単に5次産業ビジネスを始められるかというと、事は簡単ではない。日本国内の流通や、企業取引慣習は長い年月を経て形成されてきたもので、4次産業までのモデルがベースになっていて、1企業が5次産業的なビジネスを展開することはたやすくない。

零細企業が5次産業的ビジネスを展開するには、同じように5次産業的ビジネスを展開する企業と関係を築く必要があると思う。本当の5次産業的ビジネス同士であれば、ゼロサムゲームにはならないだろう。ビジネスは国家という枠内で行うため、政治力は大切だ。公共事業、その他公的資金に直接関わる業界、業種では、政治力を持つためのシステムが業界内にできあがっているようだが、一方、新興ビジネスはそれと比べると政治力には一般的に無関心だ。政治力は、典型的ともいえる労働集約的と呼べる数のゲームで、労働集約的ビジネスを展開している業態に向ているのかもしれない( 政治改革は、労働集約的な政局から知識集約的な政策を求心力とした政治を目指しているように思える)

弊社では5次産業ビジネスを展開すべく 不特定多数へのWeb 直販, 5次産業プラットフォーム活用をしてきた。PC 直販の Dell が日本では店舗販売 を始めたように、国内ビジネス慣習から 5次産業ビジネスの展開は険しい。海外の5次産業プラットフォームの利用で完結するビジネスは国内ビジネス慣習との接点がないため成功例があるのだろう。

2020年の東京オリンピックはインフラ整備だけでなく、の商慣習にも5次産業ビジネスの影響を与えきっかけになるだろうか、と思うことがある。

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